来し方 〜 忘れられぬ人々

結婚すぐの頃

車の免許がなかったので、

連れ合いの運転で、

まず、私の職場に行き、

降ろしてもらうという生活をしていた。

 

その頃の、その道々の風景。

 

いつも決まった道を、

決まった時間に行くわけだから、

道中出合う人たちも、

いつものメンバー、

ということになる。

その中でも、忘れられない方々がいらっしゃいました。

以下、

 

①うめぼしにいちゃん

うめぼしにいちゃんは、当時(約30年前)高校生だったのだろうか。

自転車で、背筋をまっすぐにして、いつも向こうからやってきた。

シャカシャカシャカ 

決まったリズムで,ぬるぎない意志で、(たぶん)高校に向かうのであったのだろう。

彼の背筋の伸び方は、幾多通り過ぎる人々の中でも

群を抜いていたが、なにより、

忘れようとしても忘れられないのが、

顔。

「うめぼし」にいちゃんなのだった。

 

石森章太郎の自画像を高校生にしたような、

深みのある、お顔。

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髪は角刈りでした。

しばらくして、彼を見かけなくなった我々(連れ合いと私)は、語り合った。

「高3だったのだろうか?」

「就職先は?」

「ボーイとか、あるいは工場勤務」

「いずれにしろ、あの背筋の伸び方を生かした仕事だろう…」

(おーーーい、進学って思考はあんたたちにはなかったのかい!)

ああ、彼は今どこで何をしているのだろう。

 

②後ろ手オジサン 

おじさんは、中肉中背、としのころ、40代前半。

特に変わったことのないおじさんなのだが、

自転車はいつも片手運転、

片方の手はハンドル(左手だったと思う)

もう片方は掌を見せて、背中に!

後ろ手おじさんを二人が乗った車が追い越すことは毎日のようだったが、

ある日、彼の手が入れ替わるのを目撃した。

後ろ手が右ハンドルを握るべく、背を離れ、右ハンドルに。

その後、左手が、ハンドルを離れ、左側の後ろ手に!

それは熟練の技のように、軽やか且つスムーズであった

 

後ろ手が見られるのは冬限定であって、

後ろでおじさんは、手が寒くないように、

後ろに回して保温していたのだろう。

時々手を入れ替えて。

 

ああ、彼は今どこで何をしているのだろう。

 

③うしろでかおじさん

うしろでかおじさんは、言葉通り、

背中がでかいおじさんで、

当時自転車で工場まで通勤していたと思われる。

(なんで工場なんだよ、事務職かもしれないだろう)

とにかく、普通の26インチの自転車が小さく見えるほど、

おじさんの背中は、でかかった。

 

自転車は、彼の巨体を渾身の力で載せているのか、

歩みが遅い、遅い、遅い。

ゆらゆら揺れて、やっとのおもいで、前に進んでいた。

自転車も巨体を乗せるのはしんどいのだろうな、

 

ところが、である、

ある日、私は見た。

シャカシャカシャカシャカと、巨体をものともせずに、

スピードに乗って、軽やかに進む背中でかおじさんの姿を。

 

それはおじさんの、(たぶん)帰り道であった。

帰ったら、奥さんの手料理と、大好きなお酒が待っているのだろう。

一日の仕事が終わった喜びと、一杯やれる期待感がはじけて、自転車のペダルはまわる回る。

じぶんに正直だった、背中でかおじさん。

 

ああ、彼は今どこで何をしているのだろう。