てっちゃん(仮名)
初任で勤めた学校に、
おもしろい男がやってきた。
名はてつ(仮名)。
なぜかすぐに気が合った。
てっちゃんは、学生時代、
ベースマンで、
スナックとかで演奏のバイトをしていたらしい。
俺は音楽には全く無縁の男であったが、
スナックでベースを演奏するとは、
すごい!すごいぞてっちゃん!
と、勝手にてっちゃんがえらい奴と思いこんだ。
しかし、私の直感は正しく、
てっちゃんは、私と毎日のように飲みに行くような、大物であったのだ。
てっちゃんと出合う前から、
わたしは、行きつけの小料理屋ができ、
毎日通っていたのだが、(その話は、また)
てっちゃんが来てからは、
てっちゃん、さちこ(小料理屋の名前)、てっちゃん、さちこ、てっちゃん・・・・
というのが、ルーティンになった。
てっちゃんと顔を合わすと、
「きょうどう?」
てっちゃんが言う。
「もちろん」俺が言う。
「てつさん、行けますか?」
「行こうか」
そういうときもあった。
いつもどちらからともなく、誘い合った。
きっと、おたがい、
誘われたときは断らないということが不文律になっていたのだと思う。
でもなぜか、行くのはいつもてっちゃんの地元。
それは私がその頃は電車通勤であったからだ。
てっちゃんの車で、てっちゃんのアパートまで行き、
そこからのみに出かける。
てっちゃんは、俺と付き合うまではあまり地元では飲まなかったようで、
二人で、良さそうな店をさがした。
「お、ここよさそうだね」という店が見つかり、
その店でしこたま飲んだ後、時たまゲームセンターに行った。
てっちゃんは、レースゲームがうまかった。
何回か、ランキング10位以内に入ったと思う。
おれは、すきなのだが、どんくさかったので、
同じゲームをやっても早く終わり、
まだ続いている、てっちゃんのゲームを見ていた。
そんなてっちゃんが結婚することになり、
アパートを引き払い、
てっちゃんの姓は変わった。
てっちゃんは、俺の学校に後から来て、さっさとちがう学校に移動していった。
てっちゃんのいなくなったあと、
てっちゃん、さちこ、てっちゃん・・・のルーティンは、
さちこ、さちこ、さちこ・・・・
に戻った。
その後も、てつさん(酔っぱらう前は先輩なので、そう呼んでいた)とは、
付き合いは続いている。
しかし、あの、しずかに、あつく、行きつく先を求めない、充実した、良き日は、
戻ってこないのだなぁ。
それでいいのだが、
なんていい日々だったのかと、
過去がちょっと
うらやましいのだ。