昔のこと
電車で3駅ほど乗ったところに「三好」という店があった。
私は飲んだくれではあっても、同時にケチなので、
ひとりで外で飲むことは、ほとんどなかった(今もそうです)。
まあ、ケチということもあるのだが、一人で飲み屋で飲んでいると
むなしくなってきて、あまり楽しくないということもある。
さびしがり屋なのだ。
さびしがり屋の私が好んで言った店が「三好」だった。
兄弟でやっていた。兄さんがその頃、40半ば、
弟さんはフォーク歌手のような長髪であった。
寡黙な二人であったが、ツマミはおいしかった。
居心地がよく、旅の帰りなんかにお土産を持って立ち寄るなんてこともあった。
ある日のこと、暖簾をくぐって、兄さんがいないことに気がついた。
弟さんに聞くと、しばらく沈黙があった後、「ちょっと入院しているんです。」
数日後お見舞いに行くと、びっくりされながらも喜んでもらえ、
「もうすぐ退院するので、また飲みに来てください。」と言われた。
しばらく弟さんおひとりでやっていたが、兄さんが戻ってきていつもの店に戻った。
私の事情でだいぶ行かない日が続いていたある日、
兄さんが亡くなり、店をたたんだようだ、という話が伝わってきた。
弟さんがどこに行ったのかもわからないという。
店の終わりに立ち会えなかったことを、後悔した。
今、コロナ禍で、大変な思いをしている飲み屋がたくさんあるのだろうな。
私が一人で行くことのできる唯一の店が、三好と同じ街にある。
三好当時より、さらに外飲みをしなくなったので、めったに行かないのだが、
どうしているのだろう。
「かっぱ」という店。
解除されたら、行くつもりだ。