私の今の歳
父は倒れた。
脳梗塞であった。
退職旅行で九州に行くという前日であった。
そのまま父は18から勤めた会社を退職したのだが、
まだまだ若い父は脳梗塞から順調に回復していった。
しかし、治療の過程で、
癌が見つかった。
胆管がん
お医者さんがいうには、
手術できるかどうか50%
手術して、成功するかどうか50%
病名その他、父には伝えないということになった。
それでも、父は薄々気づいていたのだろうと思う。
しかし、心配そうな言動は一つもしなかった。
手術は10時間に及び、無事、成功した。
手術の前後には、毎日通って、
持参した野菜スープを飲んでもらい、
気功治療をした。
(その頃私は、気に興味があり、気を患部に当てて、治療する、ということをした)
気を患部に当てていると、大体父は寝てしまった。
手術後、転移することもなく、
父は家に帰ることができた。
しかし、それから15年、
父の晩年は病との戦いであった。
人を尊敬する、そういう感覚がわからない私であったが、
今も、晩年の父はすごいと思っている。
長年勤め、自分の人生がこれからというときに、脳梗塞、
間をおかず、癌。
その後も、入退院を繰り返した。
しかし、
私も他の家族も、
父が不安を口にしたり、
自暴自棄な様子を見せた所を聞いた事も、見たこともない。
不安だったろう、
悔しかったろう、
痛い思いもたくさんしていたと思う。
しかし、父の弱音をはく姿を見たことがなかった。
一度だけ、あった。
父に、弟が再就職先でしっかり働いていることを、伝えたときの話だ。
寝ながらその話を聞いていた父は、
そうか、と言って、しばらく黙り、
「俺はもう頑張って働けないな」
と言った。
涙が出た。
「いいんだよ、もう十分働いてきたんだから」
そんなようなことを言ったと思う。
父の口から、
父の思いを聞くことはついぞなかったが、
父は、
病故、制限された行動であったが、
できなくなることが、増えていったが、
豊かに生ききったと感じている。
父は不安や、焦燥、
痛みや、挫折感と、
どう折り合いをつけていったのだろうか。
聞いてみたかった、と思ったことは幾度となくあったが、
父が私の夢に出てきて、
語ることはなかった。
父が私の夢に出てきていったことが一つだけあるのだが、
それは、弟の息子のことだった。
孫のことを、心配している、手助けしてほしい、
そんなようなことを夢の中の父は、言っていた。
今はその孫も、結婚し、かわいい子どもができた。
安心しているのかな、と思う。